コードレス掃除機「Shark evoflex S30」を修理する

シャークの小型掃除機「evoflex S30」の調子が悪い。
吸引はできるが、ノズルのブラシが回ったり回らなかったりする。

今回はこの掃除機を修理してみた。

壊れたので捨てる・・・ちょっと待て

「シャーク evoflex S30」はバッテリー式の小型掃除機だ。「コードレススティック掃除機」と言うらしい。

昭和世代のわしには、コンセントに長い電源コードを挿し、長いホースのついた本体を床の上でズルズルと引っ張りまわすやり方に慣れてしまっているので、こういった掃除機は少々抵抗がある。

でも、今の人にはこちらの方がコンパクトで見た目もおしゃれ、使い勝手も良いのだろう。


 出典:シャークニンジャ合同会社

しかし、今も昔も先端の平べったいノズルでゴミを吸い込む基本構造は変わらず、高級品にはノズル内に回転ブラシがついていたりする。

この回転ブラシ、ゴミの収集能力アップするためだが、昔は吸引力を利用してブラシを回転させるというトリッキーな?仕掛けを使っていたものもあった。

現在はモーターを使ってブラシを回転させているようだ。

しかし、新しいうちは良いが、経年によってトラブルが発生し始める。

知人の家にあるシャーク evoflex S30でもノズルのブラシが回らない現象が起きていた。

【ノズルに入っている二種類のブラシ】

知人は捨てるというのだが、外観の程度もそう悪くないし捨てるには勿体ない。

いつもの「直してみたい欲求」が覚醒する。

できるなら預からせて欲しい。もし直ったら返すから。ということで持ち帰ってきた。

早速、動作テストをしてみる。

ノズルにあるブラシは回転したり止まったり。ノズルの向きを変えると症状が出るようだ。
止まるときはノズルにあるグリーンのランプも消えてしまう。

原因としていちばん考えられるのは配線関連のトラブルだ。

先に書いたように、ノズルブラシはモーターによって回している構造が多い。

ノズルは上下左右に動かすものなので、そのうちに中に通っている配線が耐えきれず断線してしまうのである。

メーカーももう少し構造を考えれば良いものを、SONYタイマーのごとく長期間使っていると必ず壊れるような仕掛けがしてある(ように思う。)

原因の特定

状態からみて原因はほぼ配線の断線と見ていいだろう。

では楽しい分解の時間。
分解はパズルを解くようなもの。きれいに分解できた時はちょっとうれしい。

一見、分解できなさそうなものでもどこかに突破口はある。
厄介なのがACアダプタとかの電源関連品。ケースが接着剤で固定されていたり、そのものが樹脂で固められているものもある。

こうなると、分解というより破壊に近くなってしまう。

このノズルは特殊なネジが使用されているが、それを外してゆけば簡単に分解できる。
特殊なネジとはトルクスネジのことだ。

ちょっと横道に逸れるが、「トルクス(TORX)」というのはアメリカのテキストロン・カムカー社 (CAMCAR DIVISION OF TEXTRON Fastening System Inc.) が開発したネジ。

この「トルクス」という名称は、商標登録されている名称で、「セロテープ」とか、「ホッチキス」とかと同じ類の呼び名だ。

一般的な名称としては、ヘクスローブと呼ばれ、「ヘクス」という名前が示すように六角形の窪みを持つ構造となっている。
この形状はトルクの掛かり方とかいろいろメリットがあるらしい。

今回の記事では「トルクスネジ」と言うことにする。

今回のトルクスネジは「いじり防止(改ざん防止)」となっていて窪みの真ん中に突起が出ている。
このため中央に穴があるトルクスドライバかトルクスレンチが必要になる。

【左がトルクスレンチ、右がトルクスネジ いじり防止で中央に突起がある】

 出典:(株)カネコ

分解はまず、先端のローラーを外す。

トルクスネジは下図の丸印の部分にある。
一か所だけ緑色で囲んであるが、これはローラーの下に隠れている。

ローラーはちょっと外しにくいが、マイナスドライバを使って、ローラーの側面をゆっくり持ち上げてゆけば外すことができる。

ローラーもずいぶん汚れている。

この下にトルクスネジがある。

ネジを外したあとはケースの隙間にクルマ用内装剥がしなどを入れて、爪を外してゆく。

上側のカバーが外れた。

本体からの配線は平型端子で基板とつながっている。白、黒、黄の3本の線だ。

平型端子を基板から外すには、ちょいとコツがあって、下図の爪部分を押しながら、線を引っ張れば抜くことができる。
この爪を押さないまま無理に外そうとすると、線を切るか、基板を傷めてしまうことになるだろう。

この3本の線は、本体とつなげるため挿し込み口にコネクタがある。
黒、黄、白の配線は下記の接続点になる。

本当に断線なのかどうか判定するためにテスターで線間の導通を測ってみる。

一見導通があるように見えるが、ノズルを左右に振ると導通が切れてしまう。

やはり半断線に間違いないようだ。

分解と修理

断線部分の特定と配線を交換するために更に分解を進める。

コネクタ部分のカバーを取り外す。ここにもトルクスネジが使われている。

すると、コネクタ部分が取り外せるようになる。

ノズル先端部分とパイプの分離は下図のトルクスネジを外す。

配線を通してある白いガイドキャップを外す。
なぜかここだけ普通の+ネジだ。

パイプ部分と中に通っている蛇腹のホース部分を分離するにはまず下記のトルクスネジを外す。

しかし、このネジには仕掛けがしてあって、穴が樹脂で埋められているのだ。
なぜこのトルクスネジだけそんなことになっているのかは分からないが、何しろゆるめるためには、埋められている樹脂を取り除かなければならない。

樹脂はそれほど硬いものではないので、先端のとがった金属棒などで掻き出せば良い。

【下図は樹脂を掻き出したあとのトルクスネジ】

ホース部分は奥にある爪で固定されているので、マイナスドライバでゆっくり持ち上げれば爪が外れてくれる。

パイプ内の配線を押さえている部品は奥に爪があるので、それを押し込めば外れる。

ノズル回転部分についている白い樹脂ブッシュから配線を取り外せば、配線はほぼフリーな状態になる。

配線を見てみると、どうもこの保護チューブの中が怪しい。なぜなら、保護チューブにかなりこすれたような跡があるからだ。

保護チューブを剥いてみると、黒と黄色の配線の被覆が剥けて芯線が見えてしまっていた。
黒い線は皮一枚つながっているだけの状態。動作不良の原因はこれのようだ。

修理

配線を取り出してみると長さは約25センチメートル。
太さは0.5sqを使っているようだ。

さて、修理はどうするか?

いちばん簡単なのは、切れた部分をハンダでつないで、保護チューブを被せて元に戻す方法。

しかし、良く考えると、この部分は絶えず動く部分。ハンダ接続では、いつかはハンダが割れてまた断線に至ってしまうだろう。

そこで、配線全体を新しいものと取り換えることにした。
線自体の長さを少し長くして、線に負荷がかかりにくいようにすることにした。

しかし、ここで問題となるのが、基板と接続している平型端子の部分。
汎用品に交換しても良いが、特殊はものを使っているためこのまま生かすことにした。

まず、コネクタ部分は元々ハンダ付けされているので、これを外す。
保護チューブを切り取って、ハンダを外す。
厚めのハンダがされているので、ワット数の大きなハンダごてを使う方が作業が早いと思う。

配線が外れたら、代わりの配線をハンダ付けしてヒシチューブ(熱収縮チューブ)を被せる。

今回、線の色の関係で0.75sqの線を使用した。少し太いため線を通しにくいが、動作上は問題無さそう。
できれは0.5sqを使用した方が良い。

0.5sqの配線コードはカーショップやホームセンターで手に入る。

【交換後のコネクタ部分】

平型端子は、流用することにしたため、途中で切ってハンダでつなぎ、ヒシチューブで保護した。
この部分は動く部分ではないためハンダ付けでも大丈夫である。

修理ができたので、あとは組み立てと行きたいところだが、何しろ長年使っていた掃除機だ。
繊維や髪の毛、細かいほこりが内部にいっぱいついている。

この際だからきれいにすることにした。

これもトルクスネジを使っているので、どんどん外してゆけば分解することができる。

但し注意があって、トルクスネジの長さが違うものがある。どこがどの長さかメモなどしておくことをお勧めする。

今回は配線の半断線だが、念のためにモーターも正常か確認しておくことにする。

モーターのリード線に電源をつなぎ、7V程度を加えてみる。
モーターは勢いよく回り、異常は無いようだ。

あとは丹念に清掃してやる。
特に回転部分には繊維や髪の毛が入り込み、回転の負荷になるため念入りに取り除いてやる。

あとは元通り組み立てて動作テスト。

ノズルを動かしてもブラシの回転が止まることはなくなった。

バッテリーパック分解

おまけとして「evoflex S30」のバッテリーパックの分解について書いておく。

今回の掃除機には2つのバッテリーパックが付属しているが、そのうちの1つがお釈迦となっていた。

充電器を接続しても何もランプが付かず、完全に機能しない状態だった。
そこで、分解をしてみようと思ったわけだ。

バッテリーパックの型式は「XBAT200AS」。出力電圧は25.2ボルト。容量は2450mAh/61.74Whとなっている。

大きさからして18650リチウムイオンバッテリー(以下セルと略)を7個使っているのではないかと推測。

実は最近ある目的のために、18650を集めている。
もし、見立て通りなら、数本の使えそうな生セル18650が手に入るかもしれない。

但し、分解はとても危険を伴う。使えなくなったバッテリーパックといっても、まだ電荷は残っている場合がある。
実際、出力端子を計ってみると電圧は25ボルト近くある。
作業中のショートなど起こせば何が起こるかわからない。

下手をするとやけど、火災にすらなる可能性もある。従ってこのあたり慎重に作業を進める必要がある。

また敏感な人は25ボルトでもビリッ感じるかもしれないので、電極には触らない方が良いと思う。

分解は、まずサイドカバーを外す。これは爪でひっかっているだけなので、マイナスドライバなどを隙間に挿し入れば簡単に外れる。

次に、カバーの四隅にあるブランクカバーを外す。この中にトルクスネジが隠されているのでこれを外す。

両サイドにある爪を外せば、カバーが分離できる。

中はこんな具合になっている。けっこう回路が詰まっている。

DCプラグ部分を外せば、基板ごと電池が取り出せる。

基板の下側に6本のセル、上側に1本のセルで、予想通り7本の18650で構成されている。

電極部分。ショートさせないように注意。

セルはそれぞれスポット溶接で接続されている。ラジオペンチなどでゆっくり剥がせば外れるはずだ。

基板との接続はハンダ付け。ワット数の大きなハンダごてを使えば外せるだろう。

おわりに

今回はシャーク掃除機のノズルブラシの回転不良を修理してみた。
これまでも掃除機を何台か修理してきたが、ブラシ回転については配線の断線が多いように思う。

他には繊維や毛髪の軸部分へのからみ付きやギアの割れ、モーターとブラシをつなぐベルトの摩耗、破断などだ。

大概は調べてゆけば原因は分かる。自己責任ではあるけれど、修理ができる可能性があるならば、挑戦してみることだろう。

修理ができた掃除機を手渡した時の感謝の笑顔もまた嬉しいものである。