宮城から熊本まで歩いて帰る人

世の中には表面では分からないいろんな事情をもっている人がいる。
そんなことを思い知らされるできごとがあったのでそれを書いてみた。

こんなところにヒッチハイカー?

2020年3月下旬のことだ、滋賀県の大津市からから京都府の福知山市に向かう途中のことだった。
国道の側道を「福知山」と書かれたプラカードを持った人が歩いていた。

春休みだから、ヒッチハイクで旅をしているんだろうと思った。

しかし、店もほとんど無いようなこんな田舎の国道を歩いているとはめずらしい。
福知山まではまだ相当な距離がある。

ちょうど福知山へ行く途中だったので、気にはなったが、昼食のため一旦国道を離れた。

食事を終えて、再び国道に戻った。

あのヒッチハイカーはとっくに誰かに乗せてもらっているだろうと思った・・・が、まだ歩いていた、トボトボと。

ちょうど後続車もいなかったので、路肩にクルマを停めその人物に声をかけた。「ヘイ!!」と。
なんかアメリカンな声の掛け方だったが、こういった場合、どう声を掛けたらいいんだろね(笑)

すると相手も気づいたので、「乗るか?」と声をかけた。

相手は「すいません、ありがとうございます。よかった、ありがとうございます。」と申し訳なさそうに乗り込んできた。

ごく普通の礼儀正しい人という印象を持った。変な人ではなさそうだ。

そして、旅の行き先や寝泊まりについて聞くうち驚愕の事実が判明する。

歩いて熊本まで帰る?

てっきり春休みで気ままにヒッチハイクで旅をしているのかと思っていたのだがその事情は大きく異なっていた。

そしてそれは聞けば聞くほど深刻な話だった。

成り行きはこうだ。

熊本から電車で旅をしていたのだが、立ち寄った宮城県の仙台で置き引きに遭い、現金や銀行キャッシュカード類、携帯電話など一切を盗られてしまったのだ。

金銭が無く、帰るに帰れなくなってしまった。

普通なら、親や家族に連絡を取り、迎えに来てもらうなり、金銭を送ってもらうとか、何らかの方法を考えるだろう。
だが、彼には家族、親はおらず、頼れる親戚も無いとのこと。

それでも警察に相談し、どうにか金を借りるとかの方法はあるだろうにと思う。

しかし、彼が言うには、警察は何もしてくれず、盗難の被害届を受けてくれるだけ。事件性がないと動いてくれないのだ。と言う。

昔はいくらか警察の美談も聞いたことはあるが、今は完全に官僚化してしまい、融通がきかなくなってるんだろうか。ドライな社会だ。

そこで、彼はとんでもない決断を下す。

それは、

『歩いて熊本まで帰ろう。』

と。

自転車で九州一円を旅していたというから、その経験が自力で走破しようという考えに至ったのかもしれない。

わしも淡路島一周とか琵琶湖一周とか、あちこち自転車で旅行していたのでわかるような気がする。

金が無い → 電車、バスとか交通手段は使えない → ならば歩いて帰ろう(どうにかなるさ)、なのだ。

以上はなんか胡散臭いヨタ話に思えそうだが、彼の話し方や状況の説明からして、スジが通っていて十分に信用できると思った。
(そもそもこんな田舎道でだれかをひっかけてやろうとか何かを盗んでやろうとか効率が悪すぎるだろうし・・・)

その距離は

宮城県の仙台から歩き始めたのが2月下旬。

どのルートを通ったかは聞かなかったが、主に国道を歩いてきたということなので、試しにグーグルマップで調べてみると約900キロメートルの距離になる。
驚くしかない。

あの「植村直己」は南極横断の距離を体感するため、北海道稚内市から九州鹿児島市までを徒歩で走破したそうだが、何のサポートもなくこれだけの距離を歩くことは大変なことだ。

コンビニに立ち寄り地図で自分の位置を確認し、あとは「感」で歩みを進めたそうだ。

道の駅で寝泊まりをしているが、それが無いときは軒下とかで、良い場所がなければ夜通し歩いているのだという。
誰かに譲ってもらった寝袋を使っているのだが、この時期、夜間は相当冷え込むはず、よく体調を壊さずここまで来れたものだ。

更に驚いたのは、お金を持っていないので、ほとんど食事をしておらず、ここ数日は水だけで過ごしているという。
それまではもらった菓子類で飢えをしのいでいたらしい。

ほとんど栄養失調状態だ。

さすがに悲惨すぎるので途中のスーパーマーケットに立ち寄り弁当とコーヒーをプレゼントした。

コーヒーがこんなにおいしいものかと言って喜んでくれた。

福知山までのつもりだったが、もうしばらく先に行くと夜久野というところに道の駅があるので、そこまで送り届ける。

風呂にもしばらく入っていないので、温泉があるここで休息してもらいたかったが例のコロナの影響で休館中になっていたのが残念だった。

無事家に戻れるよう励ましその場を後にした。
(食料も少しだが分けてあげた。)

おわりに

何気なく過ごしている日々だが、変な病も流行っている昨今、とんでもないことが起こらないとはだれが断言できよう。

路頭に迷うというのはある日突然訪れるのかもしれない。

そんな時、強い精神力やポジティブな気持ちを維持できるだろうか?

別れた後に頭の中でいろんなことが駆け巡っていた。

人の価値観てなんだろうとも思う。

めげそうになりながらも、確実に一歩前に進む彼に何かを教わったような気がした。

熊本まではまだ相当距離がある。彼が無事、家に辿り着くことを祈っている。

(この話をブログに載せるのは、興味本位、面白半分的な記事に映るかもしれない。
しかしそうではない、人の行動について何か忘れていたものを呼び覚まされたような気がして記事にした次第だ。もちろん写真は本人の了解をとって載せさせていただいた。)

参考:
冒険好きの人にはなかなか見ごたえのあるところです。
植村直己冒険館(兵庫県豊岡市日高町伊府785)

世の中こんな話もあるようです。(リンク先を記載させていただきました。)
takumi296’s diary「故植村直己を凌ぐ、福岡~仙台間の1,400キロを11日で縦断」