クルマにサウンドエフェクト(ジェット音)をつけてみたとき

今回は、ほぼ何の役にも立たないものを作った時のお話し。おまけに製作がとても面倒臭い。

クルマのサウンドエフェクトを考える

もうずいぶん前だが、きっかけはクルマのオフ会の時に、ウケ狙いで何かおもしろいものはないかと考えたときのことだった。

その頃はあちこちでオフ会などの集まりがあり、改造やオプションを装着して「人とは違うぞ感」を出して参加するクルマも多かった。

逆にそういった「お祭り」が計画されると、俄然やる気が出て、ここぞとばかり「製作」のきっかけになるわけだ。

そこで考えたのが、クルマのエンジンを切った時に、ジェットエンジンが止まるような音がするというギミックだった。

それは、エンジン停止と同時に、「キィーーーーーン」というかん高い音を発し、次第に低く小さくなって止まるという仕掛け。

しかしほとんどのオフ会では、エンジン始動をご遠慮しなければならないため、デモンストレーションをすることはほとんど無かったが。

最近では、そんなクルマのイベントもすっかり鳴りを潜めてしまって、ちょっとさみしいね。

2018年頃までは、こんな具合にオフ会が盛んだったけど・・・

さて、このギミック、自分では結構お気に入りなのだが、当然、何の役にも立たない。
まさに自己満足の極み。しかし、他にも応用が利くかもしれない。

例えば、エンジン始動時に「免許証は持ちましたか?」とか、停止時は「ドアロックをお忘れなく」とかしゃべらせることもできる。

うまく効果音や音声さえ入手できれば、役に立つ可能性はある。

クルマ用の音のギミックって少ない?

ふと思って、クルマにつける音のギミックって何があるだろうと調べてみると、これが意外と無い。
まあ、ETCやカーナビがしゃべるのをギミックと言うかどうかは別として。

中にはこんなものもある。実エンジンの回転に同期してV10エンジンの音を再生するもの。

しかし最近のハイブリット車ではうまく動かないだろうし、EVでは全く使えない。

ギミックとは意味が違うけど、Knight RiderのK.I.T.Tみたいに自然に会話できるクルマもこれからは出てくるんだろうね。
クルマと話して何が面白いんだ、という意見はあるかもしれないけど。


 出典:wallpaperbetter.com

製作

これを作る奇特な人はいるかどうかわからないが、参考で資料を載せておきたいと思う。

サウンド再生に関する基板は電源含めて3枚の基板で構成している。

サウンド回路、モノラルのサウンドアンプ、そして電源遅延回路。

元々は、ケースに収めていたが、分かりやすいように分解して取り出した。

サウンド回路

サウンド回路はワンチップのサウンド録音再生機能を持つAPR9600を使用している。

このチップは数点の外付け部品で簡単に録音再生ができる。
しかも、録音したものは電源が断たれても、消す操作をしない限りずっと記憶している。

最大で60秒間の再生が可能で、複数のサウンドも記憶させることができる。
(全てのサウンド合計で60秒。)

秋月電子通商 音声録音・再生IC(60秒1ch用) APR9600
https://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-08744/

こちらはブレッドボードを使ったキットになっている。こちらの方が使いやすいかも。
秋月電子通商 ブレッドボード・60秒録音再生ボイスキット APR9600使用
https://akizukidenshi.com/catalog/g/gK-02060/

下が回路図。マイクではなくライン入力できるようにしている。(クリックで拡大)

7番ピン(OCSR)に接続する抵抗によって、再生品質が変えられるので用途によって変えるとよいだろう。
ただし、品質を上げるほど、録音可能時間は減る。(抵抗は近似値でよい。)

抵抗値 サンプリング周波数 録音音声周波数帯域 録音可能時間
84 k 4.2 kHz 2.1 kHz 60 sec
38 k 6.4 kHz 3.2 kHz 40 sec
24 k 8.0 kHz 4.0 kHz 32 sec

APR9600はアマゾンでも売っていたが、ちょっと高い。

モノラルアンプ

次に、音量を大きくするためモノラルのアンプ組み立てキットを使用した。
(APR9600単独でもスピーカが接続できるが、音量が足りないかもしれないので。)

これも秋月電子で購入したもの。

秋月電子通商 東芝TA7252AP(モノラル)オーディオアンプキット

但し、もう販売終了になってるみたいなので、下記のアンプが代用できると思う。

秋月電子通商 TDA2030使用アンプキット(10Wモノラル)
https://akizukidenshi.com/catalog/g/gK-12338/

そんなに大きな音はいらないので、下記のアンプキットでもよいかも。

秋月電子通商 TA7368使用小型アンプキット
https://akizukidenshi.com/catalog/g/gK-05965/

音質はこだわらないので、出力数ワット程度の安いモノラルオーディオアンプで十分だ。

スピーカーは、室内に設置しても聞こえないのでエンジンルーム内に設置する。

ここまで配線を通すのはちょっと厄介だが、頑張ればできる。

スピーカーは雨で濡れないよう、場所を考えて設置した。
できれば、雨や汚れを防ぐため、何かのケースへ入れる方がよいと思う。

電源遅延回路

今回の2つ目のキモとなる回路。

電源遅延回路は、エンジンを切った後(正確にはイグニッション電源をオフした後)、約30秒間電源を供給するためのもの。

この30秒間で、サウンド回路とアンプを動作させ、サウンドを再生させる。
30秒間だけ動作するのは回路の暗電流によるバッテリー上がりを防ぐためだ。

奥にある透明の四角い部品はフューズ、右の黄色い四角の部品は小型の12Vで動作するリレー。

回路図と全体のつながり図。(クリックで拡大)

一応、回路の動作説明を書いておく。
(素人が考えた回路なので、何らかのミスはあるかも知れないが、今のところ正常動作している。)

①イグニッション電源(IG1)が12Vの時(つまりキーがイグニッション位置)はダイオードD1を通してコンデンサC1に充電される。
またトランジスタQ1のベースに電圧がかかるためQ1はオン状態となり、FET Q2のGateへの入力は無くFETはオフになっている。

②イグニッション電源がなくなる(≒エンジン停止)でトランジスタQ1はオフとなり、コンデンサC1の電荷は抵抗R2を通してFET Gateへ供給される。
これでFETがオンとなりリレーが動作する。

③コンデンサC1の電荷は抵抗R3とボリュームVR1にも流れ、次第に電圧低下し、やがてFETがオフ、リレーも復帰する。
(流れる電流をボリュームVR1で変化させることでリレーの動作時間の調整が可能。約20秒~40秒ぐらい。)

この回路はシビアな時間の動作には向かないが、使い道はいろいろあるような気がする。

FETは「IRFW540A」という聞き慣れないものを使っているが、汎用品のNchパワーMOSFETで良いと思う。

秋月電子通商 NchパワーMOS FET 100V 28A IRFW540A(4個入)
https://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-01191/

動作させるにあたって、常時電源とイグニッション電源の取り出しが必要になる。
また、イグニッション電源の代わりにアクセサリ電源(ACC)でも代用可だ。
(このときはアクセサリ電源オフで回路が働く。)

こういった電源端子を探すとき、ネットでも情報はある程度得られるが、回路図とかコネクタ配線図が書いてある技術資料が役に立つ。

過去に電子マニュアルを記事にしているので、ご参考までに。
クルマの「電子技術マニュアル」というもの(RAV4 50系)

回路全体の動作時消費電流は約130 ~ 200mAぐらい。(音の大きさによる)
製作費は4000円もあれば作れると思う。

「音」をつくる

さて、問題は効果音や音声をどうやって手に入れるかである。

最近は便利で、サウンド素材をネットで手に入れることもできるようになってきた。

しかし、今回の「ジェットエンジン停止音」は、ネットであちこち探しても、落ちてもいないし、売ってもいない。

これは困った。ならば、自分で作るしかない。

押し入れから、昔のアナログシンセサイザーを引っ張り出してくる。

そして格闘すること数時間、どうにかそれっぽい「音」を作ることができた。

一応、mp3化したものを載せておく。(約23秒)

ジェットエンジンというよりも、何かの回転物が高速回転から次第に停止してゆく感じの音だ。

ジェットエンジンだ、と言われれば、そう聞こえなくはない程度のものなのでお許しを(笑)

もう少し、ノイズを増やせばよかったかな。
しかし、JUNO-106が壊れてしまったので、もう再現しようがないのだ。

もし、「声」を入れるなら、最近はネット上で音声を作成してくれるサイトがあるので、それを利用するのが良いだろう。(但し二次使用を禁止しているところもあるので注意。)

録音したサウンドを無料ソフトウエアで加工、編集すれば完璧だ。

ちなみに以下のサイトが発見できた。

株式会社 AHS 東北ずん子デモ
https://www.ah-soft.com/voiceroid/zunko/index.html

HOYA株式会社 MD部門 ReadSpeaker
https://readspeaker.jp/

NTTコミュニケーションズ株式会社 音声合成デモ(30文字まで)
https://api.ce-cotoha.com/contents/demo/speech-synthesis.html

日立ソリューションクリエイト株式会社 音声合成システム ボイスソムリエ ネオ Webデモ(200文字まで)
https://www.hitachi-solutions-create.co.jp/solution/voice/webdemo/index.html

また、VTuberでよく使われている、棒読みちゃんとか、音声合成ソフトウエアの体験版を使うのも手かもしれない。

ありがたいことにこのご時世、手段はいくらでもある。

おわりに

ちょっとマニアックな話しになってしまって申し訳ない。

しかし、構想して(いや妄想か)、方法、方式を考え、回路を考え、そして実際に回路を組んで動作させる。
一連のプロセスは根気がいるが、成功したときは実に気持ちがいいものだ。
まさに、いつも言ってる「脳が満足した。」状態になれる。

今回のサウンドエフェクトギミックも半年以上、あれこれ考えていたような気がする。

最近は高度な音声合成や、AIによる音声変換とか、面白そうなものがいっぱい出てきている。
興味半分でそんなソフトウエアを使ったりしているので、機会があれば記事にしてみたいと思う。